1971年4月、写真家として独立した当初は誰からの依頼でもなく発表のアテもないいわゆる「作品」と呼ぶ自主制作の写真を撮っていた。そのうちに雑誌のグラビアページ、広告撮影の声もかかり、ジャンルを問わず手当たり次第に写真を撮るようになった。しかしそれら当時のネガやポジフィルムの幾つかは、事務所や自宅を度々移転する間に紛失してしまった。残った数百点の写真には、残るだけの理由があるのだろう。
ギャラリー再開に当たって手元にある当時の写真をまとめて展示しようと思った。
20代〜30代に撮影した写真を見ると、言葉では説明出来ない何ものかが群れているようでもある。自主制作作品、広告、雑誌などの媒体を超えて写真表現を拡げようとする強い意思を感じる。一方で「不安感」に怯えながら記録しようとしたものは何だったのだろう。頼りなさから生まれてくる明確でないもの、確信出来ないが心に残って消えないものにこだわり続けた。1970年〜80年代という時代の光と影を確認するだけでなく、今につながる新たな可能性を発見出来たら幸いだと思う。
十文字美信