1974
1974年、松下電器デザイナー東澤雅春さんから、携帯ストロボ雑誌広告の撮影依頼があった。
ストロボは閃光時間の短さから、肉眼では確認出来ない動きの瞬間を凍結させることも可能だ。今では当たり前の事だが、50年前はまだ広告には珍しいアイデアだった。日常生活からさまざまな現象を選び、凍結した動きをビジュアルとして実際に見せると、強いインパクトが生まれるだろうと考えた。
殴られて吹っ飛び、リングから落下するボクサーを空中で静止させることを思いついた。
ストロボの特徴と効果を一目でわかる「百聞は一見にしかず」が頭にあった。
映画のスタントをやっていた「JAC(ジャパンアクションクラブ)」を訪ねて、リングから落下するボクサー役を頼んだ。リングサイドに集まったカメラマン、関係者、観客、などはデザイナー、コピーライター、スタイリストなど撮影スタッフにお願いして出演してもらった。スタッフ全員の手作り撮影だ。但し、リングから本当に落下することはリングサイドカメラマンに知らせないでいた。
また、ボクサー役のスタントマンには、ヒラリと足から着地しないで、ぶざまに腰から落ちるように頼んだ。
殴られて吹っ飛ぶのだから見事に着地しては困るのだ。
本番は一発勝負。
ボクサーはしたたか腰を打ったと思う。
AD・D→東澤雅春、C→松岡英輔、ST→児島雪絵、M→JAC