剥製
これらの動物達を前にして、僕はたまらなく興味をそそられた。特に注目したのは顔だ。本当に生きているかのように見える。動物らしい表情というより、人間のような哀しみを湛えているように感じられた。いや、動物でもなくもちろん人間でもない、死んだはずなのに生きているような不思議な物体に変質していた。ただし、たったひとつの表情のまま静止している。さらに僕の心をとらえたのは、凍結した瞬間が、時間の経過に従って、ゆっくりと複雑な様相に解凍されていくことだ。製作者の意図を越えて、動物の顔が予想もつかない物体へと変質している。ただジィッと見つめているだけでよかった。何の感情ももたない表情というのが存在するなら、これらの動物達の顔に浮かんでいるものがそうだ。僕を見返して放さないまなざし。眼や鼻や口や歯など、顔面を構成しているすべての表面に浮き出しているものが、見つめている僕の内側と通じ合ってしまう。哀しく見えるのは剥製のせいではなく、僕の心の問題だ。生きているか死んでいるかの差異よりも、もっと大切なものがある。写真を撮ることで発見した、剥製と僕との新しい関係だ。
(『感性のバケモノになりたい』より一部抜粋)